Hanging garden

独り言とか

水滴

久々に

梅雨イメージで

書いてみる


ミンホです。ホミンではありませぬ

ご注意を

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ほたり、ほたりと雨が降っている。

ユノはそれをコンビニの軒先で見上げている。


待ち合わせはすぐ近くのコンビニ、雨が降るのは分かっていたのだから先にユノだけで予約した店に向かってもよかったけれど、何となくそのまま軒先でチャンミンを待つことにした。


空は灰色の雲に覆われて、重く沈む。

視線の先、ほた、ほたと滴が落ちる。

薄闇に閉ざされるまでにはまだ早い。黒、赤い花柄、黄色、透明なビニール。色とりどりの傘がくるりくるりと動いては、ユノの視界を横切っていく。

道路を挟んだ向かい側の道を直進すれば駅だから、営業先から会社に戻ってきた、あるいは少し早い定時帰りの会社員たちがちょうどすれ違う時間帯なのかもしれなかった。


ずいぶんと長く、友人としてその隣にいる自覚はある。


来年は、自分よりもずっと彼に近しい女性がその隣にいるのかもしれない。毎年毎年そう考えては、誕生日の直前に声を掛けてあっさりと首を肯定されて、ほっとする繰り返しだった。

子供の独占欲だと、そう思っている。


「あ」


黒、紺色、似たような傘とスーツの波の合間に、待ち人をユノは見つける。何故分かるのかとおかしくなって、ユノは何となく笑った。


それから、すうと笑みが引く。

何となく、何となく。

分かってしまう自分に、今更気が付いてしまった。


傘、傘、傘。

覗く革靴の爪先、どれも似通っているのに、チャンミンだけが違う。

視線の先、紺色の傘の下、整った顔立ちが覗く。

黒い瞳が瞬いて、こちらに気付いたらしいチャンミンが、傘をひょいと上げる。

挨拶のつもりかとおかしくなるのと同時に、ああ男前だなぁと唐突にユノは思う。


違う。

彼だけが、違っている。


「───……」


それから、頬に血が上るのが分かる。えーあーあー何それ何それ意味分からない、ていうか分かるけど、分かるけどな、いやいやいや俺しっかりして俺!


子供の独占欲だと、そう思っていた。


思いたかった。

毎年毎年、生まれた日という特別な日に一緒にいたいと思う。

どんな場所でも、人ごみの中でも、簡単に見つけてしまう。


それは。




「ヒョン、何ひとり百面相やってんですか?」

「えあ!?」




ユノの隣に立ってチャンミンもまた傘を畳む。ほんの少しだけ水しぶきが飛んだ。からかうような口調に素っ頓狂な声で返してしまって、ユノはぶるぶるとかぶりを振る。胡乱な目は一瞬だけで、すぐにチャンミンの視線は伏せられる。

慣れたチャンミンのにおいがする。

肩先が触れるのに、ユノは何となく目を泳がせる。ジャケットはほんの少しだけ湿って、色を変えていた。


「ヒョン、よく僕にに気付きましたね」

「ああ、ええと、ほら、背、高いから?」

「違うでしょ」


断定的な口調だった。

チャンミンは目を眇める。

何だよと揶揄しようとしたユノの舌が凍る。

チャンミンの黒い瞳がまっすぐにユノを見つめていた。


「毎年毎年美味いものとかいろいろお祝いは貰ってるけど、今年はこっちからリクエストしていいですか?ユノ」


「リクエスト、」


「そう、リクエスト」




ヒョンからしか貰えないものだよという声はあまりに真摯で、ユノはぎゅっと傘の柄を握る指に力を籠めた。


雨が降る、ぽたぽたと落ちていく。


灰色の雲の切れ間から、青い空が見える。




「いい加減ぜんぶくださいよ、ユノ」




待ち続けてるんですよと、小さく続く。


へえ、とユノは相槌を打つ。

ほたりほたりと滴は落ちる。

視線の先で、ありふれた傘や靴は巡る。

隣でずっとユノのすぐ傍にいた。

指の先が震えているように見えるのは、気のせいだろうか、それともユノの願望だろうか。


「欲しいのか」

「欲しいな」


何を、とはチャンミンは云わなかった。

云わなくても分かっていた。

この滴が途切れれば今までの関係がぜんぶ変わるのだろうかと、ユノはほんの少しの恐怖と、それからたぶんそれよりずっと大きい期待に視線を上げた。


fin




梅雨早くあがれ!